何たる迷惑であることか!

独自の路線で生きています

愛犬が逝った

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 今朝方、愛犬が逝った。黒いメスのトイプードルで、名前はサラ。18歳と7ヶ月だった。

 人間で言えば100歳を優に超えていて、大往生だったと思う。いつかこの日が来ることは、ずっと前からわかっていた。わかっていたのに、最初は事実を信じられなくて。信じたくないものなのだな、と改めて知ることになった。愛する存在を喪うことは、これほどまでに言葉が追いつかないものなのか。

 

 以下に、愛犬との歴史を記す。

 彼女が我が家にやってきたのは、2001年の7月だった。富士山の麓にあるブリーダーから、生後3ヶ月の子犬を貰ってきた。生まれた時は手のひらサイズの本当に小さな犬で、とにかく写真映りが悪かった(笑)。真っ黒でふわふわの巻き毛の中に、黒豆のような瞳が輝いていた。

 今思えば、その時の父はちょっとした躁状態にあったのだろう。当時、父は悲願の一戸建てを手に入れたばかりで、仕事もうまく行っており、順風満帆の心持ちだった。新たなステイタスとしてペットを飼ってみたかったのかはわからないが、犬を飼うことに父はやる気満々だった。あのペットショップの犬がいい、このブリーダーの犬がいい、と方々を楽しそうに探し回っていた。もちろん、当時中学生になったばかりの私も同じ気持ちで、その上ひとりっ子だったので、家族が増えることに希望しかなかった。唯一、母だけは生き物が苦手でペットを飼うことに賛成はしなかったが、かと言って意見の表明をすることはなかった。

 

 新幹線に乗っている間中、クンクンと泣き続けていた子犬は、我が家に着くなりケージから飛び出した。あっという間に部屋中を駆け回り、庭へ飛び出した。小さな体に、バネでも入っているかのような力強い走り方だった。二階へもあっという間に登れるようになり、朝寝坊した私をよく起こしてくれた。

 散歩のとき、彼女のあまりの可愛らしさに、飼い主の我々まで注目を集めるほどだった。すらりすらりと、軽やかな足取りが美しかった。人に対してはちぎれんばかりに尻尾を振って愛想を振りまくわりに、他の犬に対しては臆病だった。いくら食べても太らない代わりに、毛がものすごい勢いで伸びて、1日でもブラッシングを怠るとあちこちに毛玉ができた。トリミング前は毛が伸びてボーボーの見た目になり、トリミングをするとつるつるになって、同じ犬とは思えなかった。

 

 10歳の時に、乳腺の近くに小さなしこりを見つけた。獣医に見せると、「乳腺腫瘍ができている」と言われた。いわゆる乳がんだ。細胞診をしたが、悪性とも良性も言い難く、腫瘍の除去には乳房全体を取らなくてはいけない、と言われた。既に、愛犬は高齢だったし、麻酔に耐えられるかどうかわからない、とも言われたので経過観察することにした。当時は2011年、我が家は父が無職になって6年目、いつの間にか介護地獄に突入していた。そんな状況だったので、飼い主である父は、ペットの健康状態になど興味がないようだった。

 

 幸いにして乳腺腫瘍の進行は遅かった。愛犬は苦しむ様子もなく、腫瘍と共存しながら、少しずつ衰えていった。歯が抜け、目は白く濁り、階段を登れなくなった。散歩と食事以外は寝ていることが多くなった。若い頃は決して家の中でトイレをしない犬だったが、ケージの中で粗相をしてしまうことも増えた。その頃には介護地獄も終わり、父は虚になっていたものの、愛犬の世話はまめにしていた。愛犬はおむつを充てがわれ、乳腺腫瘍を二週間に一度、薬で固定する治療を受けるようになった。

 

 去年、里帰りした私が息子を出産し、3ヶ月ほど実家に滞在していたころ。愛犬は日がなうとうとしながらも、息子のことを常に気にかけていたようだった。ベビーベッドを覗こうとして、父に止められていた。止めなければよかった。

 

  後悔は尽きない。けれど、ひとつ自分に誇れるものがあるとすれば、早い時点で愛犬との別れを想定していたこと。去年、里帰り中に何度も愛犬に「愛しているよ」と語りかけることができた。だから、覚悟はできていたのだ。なのに、今愛犬の写真をiPhoneで探して、出てこないことに愕然としている。機種変更したときに、外部媒体に移したのだったか?それすら、この瞬間まで忘れていたのだ。愛犬がいることは、当たり前になっていた。こんなにも別れが辛いとは。思い出が尽きないとは。

 

 サラよ、虹の橋を渡ったのだね。あなたの友達は皆、あなたより早く逝ってしまったから、今ようやく友達に会えたのだね。天国の特等席にいてください。いつか、私も行くから、その時はよろしくね。

 

 犬は、人類の最大の友人である。

 ただ、その命はあまりにも短い。何故なら、犬は人よりもよほど天に近いからだ。

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