何たる迷惑であることか!

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吾妻ひでおを偲ぶ

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 漫画家の吾妻ひでお氏が、2019年10月13日に都内の病院で亡くなられていたとの報道があった。69歳だった。心よりご冥福をお祈りいたします。

 

【以下、個人の感傷】

 

 死因については公表されていないが、おそらく食道がんで闘病されていた折、氏は周知の通りアル中で、アル中の平均寿命は50歳と言われているから、長生きしたほうと言えるかもしれない。

  実際、「失踪日記」でも入院した原因はアルコールによる内臓疾患ではなく、精神症状の悪化と描かれているし。よほど肉体も精神も頑丈な方だったのだろう。

失踪日記

失踪日記

 

 

 私にとっての「吾妻ひでお」とは「失踪日記のひと」なのだが(これでも平成育ちなので)、描かれている内容は悲惨なのに、丸っこくてカワイイ絵柄と、徹底的に自分を突き放して見るクールな視点には正直シビれた。

 

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 ここまで悲惨な内容をこんなカワイイ絵柄で描けるひと、居る?

 

 また、「失踪日記」が発行された時期がたまたま十代の鬱期(笑)だったこともあって、吾妻漫画にハマった。

 

失踪日記2 アル中病棟

失踪日記2 アル中病棟

 

 「アル中病棟」は発売日当日に本屋へ買いに行ったし、

 

うつうつひでお日記 (単行本コミックス)

うつうつひでお日記 (単行本コミックス)

 

  「うつうつひでお日記」は買っただけでなく、出先の図書館でわざわざ借りて読んでいたくらいだ。

 

地を這う魚 ひでおの青春日記 (単行本コミックス)

地を這う魚 ひでおの青春日記 (単行本コミックス)

 

  「地を這う魚」も好きだったな〜 あのどうしようもなく陰惨な「どろろん」とした雰囲気が好きだった。

 

 「うつうつひでお日記」には度々出てくるけれど、氏は中島らものことが作品・人柄ともにとても好きだったそうで、それで興味を持って読んだ「今夜、すべてのバーで」にこれまた大ハマりした。

 

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

 

  アル中=アルコール依存症に陥りがちな人の病前性格として、どうしようもない寂しさ、いわば「存在の孤独」とも言えるような重い孤独感を背負っていることが多いと聞くけれど、まさしく吾妻ひでお中島らもも、重くどうしようもない孤独を背負っていたひとであった。

 しかし、この二人の作品で痛快なところは、「自分をわかってほしい」というシケた甘えが一切ないところだ。

 

  みじめな人間がすべてジャンキーになるのだったら、世界中にシラフの人間は一人もいなくなるだろう。同じ苦痛を引き受けて生きていても、中毒になる人間とならない人間がいる。(中略)

 中毒に陥った原因を自分の中で分析するのは結構だが、"みじめだから中毒になりました"というのを他人さまに泣き言のように言ったって、それは通らない。それでは、みじめでなおかつ中毒にならない人に申し訳がたたない。

 

 "私のことをわかってくれ"という権利など、この世の誰にもないのだ。

 

 

 吾妻氏は「アル中病棟」を上梓された際に、「もっと絵が上手くなるようにデッサン教室に通っている」と語っている。

matogrosso.jp

 

とり ああ、だから逆にそのプレッシャーで失踪された。......ご自身のキャラクターが2等身だったのが、今回は3等身になってたり、全体的にリアルになってるのは、これはあえて──

吾妻 あえて。5年くらい前からデッサン教室に通ってるっていうのもあって。

とり それは何か思うところが?

吾妻 絵が上手くなりたいと思って(笑)。あと絵の学校とか行ってないから、そういうあこがれもあって。

とり スクールライフに。

吾妻 西原理恵子だって美大ですからね。自分もそういう雰囲気に浸りたいなあと(笑)。すごく楽しかったですよ。

とり いわゆるデッサンと、マンガの絵は全然違いますよね。

吾妻 そう、だから全然描けないんですよ。絵がマンガになっちゃう。そこからリアリズムに近付くのに、1年掛かったな。もちろん、マンガの中でそこまでリアルを追求しようっていうんじゃないんだけど、そういう勉強も経験しておきたいなと思って。

 

 実際、「アル中病棟」以降の絵は頭身が高くなり、女性キャラに至ってはより艶めかしく、神秘性すら感じられるデザインとなっている!

 氏が亡くなられたのは69歳。確かにアル中としては長生きされた方かもしれない。しかし、氏の絵はまだまだ進化していたのだ……惜しい、あまりにも惜しい。