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【書評】吾妻ひでお「うつうつひでお日記」を読む

 

うつうつひでお日記 (単行本コミックス)

うつうつひでお日記 (単行本コミックス)

 

  私は他人の日記マニアである。それも、できれば食べたものとか天気とか、波乱のない日常が淡々と描かれているものが好きだ。もちろんイベントごとがあれば面白いけれど、何よりも他人が「生活」をどのようにこなしているか、について非常に興味がある。

 日常ではないが、他人の入院体験ブログなども好きである。入院して日常から強制的に切り離されることで、逆にその人が日常で何を大切にしているか、が浮かび上がってくるように思えるからだ。

 

 さて本書。ギャグ漫画家の作者が、うつ病・失踪・アル中で精神病院への入院を経て、断酒しつつ社会復帰し続ける日常を描いたものである。

 

 この本は大ヒット作「失踪日記」の出版後、角川書店から「失踪日記」と酷似した装丁で売られたものであり(笑)、うちの父が失踪日記の続編と勘違いして買ってきた(笑)。今も昔もカドカワって奴は。。。読めばわかるが、失踪日記と内容のつながりこそないものの、続編ではなく「失踪日記」を執筆していた時期の生活を描いたものである。失踪日記の舞台裏を見ているようで、私は気に入っている。

 

 すでに買って持っている本書であるが、北九州市立図書館が所蔵しているのを偶然見つけてしまい、シチュエーションが面白すぎるのでつい借りてきてしまった。独特の蔵書センスを誇る北九州市立図書館。。夏はよくホームレスの方が休んでいる北九州市立図書館。。。さすがである

 

 ↓北九州市立図書館の独自性についてはこちらの記事を読もう

kinaco68.hatenablog.com

 

 本人も書いているように「波乱なし・だいたい食事記録と読書感想文」が内容ではあるが、淡々と日常を描いている。にもかかわらず、退屈しないし、読んでいて癒される。

  日常でありながら、ちょいちょい幻覚が入ってくるのも面白い。↓

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 「うつうつ」とあるように、作者はうつ病(双極性障害?)を患っている。生来、躁鬱の気質があった上に、ギャグ漫画家としてのプレッシャーと完璧主義が災いし、鬱から逃れるためにアルコールに溺れ、依存症の地獄を見ている。いわば、生と死の際まで行って、戻ってきた人なのである。とりわけこの日記が描かれた時期は、ほとんど仕事が無く、経済的にも大きな不安があった。にも関わらず、それが全く陰惨ではなく、楽しんで読める作品になっているのはさすがとしか言いようがない。

 

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 終盤になってようやく、上梓した「失踪日記」への反響などが日記へ反映される。ここで少し、人生の盛り上がりがある。が、その間もコツコツと断酒会へ通っていたり、うつになって抗うつ薬飲んだり、寝たり、「うつ病と闘うでなく、でも負けずに生き続ける」人の実態が描かれていて、とても励まされる本なのである。

 

 ちなみに、本書は2004年夏〜2005年冬までの時期に描かれたものであるが、この時分の我が身を振り返ると、

 

  • 父親がうつをこじらせて会社を辞めようとしており
  • 部活では顧問からいじめられまくっており
  • 家庭にも学校にも居場所がなく、閉塞感でいっぱい

 

 年こそ華の女子高生だったのに、まるで華のない暗い生活を送っていたことを思い出した。よく生きてたな〜。「失踪日記」と本書を読んだのは、十代の鬱屈の頂点だった高校2年生の頃なんだけれど、仕事のスランプから失踪、自殺未遂を経てアル中で精神病院へ入院した「失踪日記」にハマれたのは幸福だったのだろう。辛い時期に、寄り添ってくれる本が、世の中にはあるのだ。