何たる迷惑であることか!

独自の路線で生きています

職業訓練(求職者支援訓練)まとめ

 

 昨年8月から通っている職業訓練も残り2週間。いよいよ終盤に差し掛かったところで、ここまでの流れを振り返ってみる。

求職者支援訓練とは

 失業者が、就職に必要な技能及び知識を習得するための訓練を無料(テキスト代等は自己負担)で受けられる制度のことを職業訓練という。主に、雇用保険受給者(つまり失業して日が浅い人)を対象にした訓練を公共職業訓練雇用保険が受給できない人を対象にした訓練を、求職者支援訓練と呼ぶ。ちなみに職業訓練の別名として「ハロートレーニング」があるらしいが、少なくとも現場では聞いたことがない。

www.mhlw.go.jp

 

 大雑把に言うと、国からお金を貰いながら無料でスキル習得のための授業が受けられるのが公共職業訓練で、国からお金は貰えないが、無料で授業が受けられるのが求職者支援訓練である。なお、求職者支援訓練でも、一定の条件を満たせば職業訓練受講給付金を受給することができる。受給金額は月10万円程度。私の通っているコースでは、受講者中、私を除く全員が給付金を受給している。公共職業訓練に比べれば手当は少ないが、国の補助を受けて勉強することができるわけだ。


訓練の流れ 

学べるプログラム言語:HTML4.01/CSS2(資格取得を目指す)、JavaScript(初級者レベル)、PHP(初級者レベル)
学べるWeb技術:画像編集(画像ソフトとしてGIMPを用いる)、WordPressを用いたサイト作成法
その他学べる技術:ビジネスマナー、履歴書の書き方等

 

 私の受けた訓練は、「インターネットショップサイト作成コース」という。プログラミング初心者が、HTML/CSSの勉強から始めてJavaScriptPHPを学び、最終的にWordPressを用いてショッピングサイト(ECサイト)を作れるようになることを目的とした訓練である。途中でHTML4.01の資格試験(Webクリエイター初級/上級)を受験する機会があり、独りよがりに陥らないプログラミング技術を身に付けることが可能である。生徒は一人一台パソコンを与えられ、プログラミングや画像編集を学ぶこととなる。今回は8月に授業が始まって、10月にWebクリエイター上級の試験があり、無事に合格することができた。

 ちなみにサイトの見た目について、現行のWeb作成現場で使われる言語の主流はHTML5/CSS3であり、HTML4.01は一世代古い言語となっている。講師側は、まず基本としてHTML4を叩き込まなければ話にならないとし、上級者のみHTML5を独学してもらうやり方を採用していた。実際、私の受けたクラスでもHTML4をマスターして5に移れたのは私を含めて全体の4割に満たなかったので、この判断は正しいと思っている。

 

 ただし、カリキュラムの関係上、JavaScriptPHPは初級者レベルの浅い知識しか教えてもらえない。目標がWordPressでサイトを作ることなので、最低限PHPの知識があれば何とか形にはなるという考えのようだ。この考えは間違っていないとは思うが、プログラミング経験者としてはもう少し深い内容(何故PHPはデータを持った状態でページ遷移ができるのか、ショッピングカートシステムの作り方等)を教えて欲しいと思ってしまった。

 

 また、ECサイトを作るにあたり欠かすことのできない画像編集についても授業を受けることができる。画像編集ソフトとしてGIMPを採用し、写真の色温度の変更法から、修正や合成など画像編集の基本を学ぶ。今回、訓練の講師の本業がグラフィックデザイナーであったことが幸いし、画像編集についてはプロの視点から深い指導を受けることができた。

 欲を言えばWeb現場で使われているPhotoshopIllustratorを用いた授業を受けたかったところだが、それは欲張りすぎというもの。ちなみにGIMPは無料でDLできる画像編集ソフトで、アイコンがわかりやすく操作を覚えやすいのが魅力である。作成した画像の拡張子が珍しい.xcfであるため、普通に使える画像にするにはjpegPNGへのエクスポートが必要であったり、繊細な文字入れが不可能であったりと限界もあるが、画像編集の入門に使うには適したソフトであると思う。

 

 他方、メインの訓練以外に「職業能力基礎講習」という授業があり、ビジネスマナー(!)や履歴書の書き方、面接練習について授業を受ける。私が受けた教室では全員が就業経験があるため、ビジネスマナーの授業はかなり退屈だった。仕事上での立ち振る舞いの基本など、わざわざ座学を講じなくても、一度でも就業経験があれば自然と身につくものである。とはいえ、求職者支援訓練は間口が広いため就業経験が無い人は当然居るだろうし、この授業は妥当なものだろう。

 訓練を受けるにあたり、毎月決まった日時にハローワークへ来所する義務が発生する(ハローワーク来所日)。ハローワークでは職業訓練の担当者が居て、主に授業への出席率をチェックされる。訓練が後半になると、就職への応募状況なども聞かれる。私の場合、最寄りのハローワークがかなり大きいため(ハローワークは管轄する地域によって規模が異なる)、その分職員の人数も多く、固定の担当者はつかなかった。来所日は毎回違う担当者に

「授業出席してますか~」

「皆勤です」

「そろそろ応募を始めましょうね~」

「アッハイ」

上記のような、5分にも満たない面接を受けていた。ただし、これはハローワークによって方針が違う。同じ訓練を受ける生徒の中には厳しい担当者から毎回説教を食らう、というような例もあるようだ。

 

就職について

 今まさに、訓練を受けてスキルを身に付け、いざ就職!の段階に差し掛かっている。前述の指定来所日は訓練が終わっても3ヶ月続く。訓練を受けて、何とか雇用保険の利く会社に就職してもらい、最低3ヶ月は働いて欲しいのが国のお気持ちなので、訓練終了が近づくにつれ、担当者からかけられるプレッシャーは大きい。

 当初、訓練が終わったら職業訓練校が仕事を斡旋してくれるものだと思っていたが、私の通う学校では違うようだ。あくまで職を見つけるのは個人に託されている。

 

 しかし、周囲を見回すと就職への道は少々困難なようである。というより、生徒の就職へのモチベーションはかなり低い。

 例えばAさん(男性・60代前半)は、授業態度は真面目そのものだが、老眼のため画面の小さな文字が見えにくく、コーディングのスピードが著しく遅い。また、就職の意思はあるものの、年齢制限(上限65歳まであと半年)に引っかかって最初から窓口に撥ねられてしまうことがほとんどだという。就労意思に反して周囲の環境が整っていないのだ。

 また、Bさん(男性・30代半ば)はプログラミング未経験者ながらロジックを組み立てる生来のセンスがあり、課題は簡単にこなせる。しかし、いざ就職活動のために職務経歴書を書く段になると、途端に思考停止状態に陥ってしまうらしい。単に作文が苦手なのかもしれないが。プログラミングはできるのに、パソコンにもWebにもあまり興味がなく、外野から見ればせっかくの能力が勿体ないと感じてしまう。聞けば就職しても短期間での離職を繰り返していたらしい。現在は妻子持ちのため、働かなければいけない自覚はあるようだが、職業訓練は時間稼ぎの意味合いが強いようだ。

 

 かく言う私も、夫が転勤族のため、数年後にはこの地を離れる身。数年で居なくなる人間を正社員で雇いたい企業はない。いきおい、替えの利きやすい派遣やパートなどで働くしかなくなる。本音を言えば企業に属してバリバリ働き、Webの最前線の世界に触れたいが、それが出来ない(そして家事育児と両立できる自信もない)。

 いい加減、日本は鉢植えの入れ替えみたいに社員をぽんぽん転勤させるのを辞めてほしい。様々な経験を積ませて社員を育てるため?いやいや参勤交代の名残りでしょ。こちとら企業様の気まぐれで家族を引き裂かれる代わりに職も人とのつながりも丸ごと無くしたのである。やんぬるかな。

 

 転勤について、働き方改革の提言が出ています。読むと面白い↓

c-faculty.chuo-u.ac.jp

 

職業訓練で得たもの

 無職には一週間で飽きたので、半ば破れかぶれな状態で望んだ職業訓練だったが、結果として私の人生を大きく進める一歩となった。

 

 まず、前職ではいまいち自信が持てなかったプログラミングについて、自分にも出来るという自信がついた。特にWeb系言語は変化がわかりやすいため達成感を得やすく、プログラミングをしていて自然に楽しいと思えるようになった。単純に、ロジックを組み、コードを書くのが楽しいのだ。プログラミングは「仕事の道具」である以上に、私のような夢見がちな人間にとって最高のおもちゃだと思う。訓練で学ぶ言語だけでは飽き足らず、プログラミング学習サイト「Progate」でいろいろな言語に手を出してみるのも楽しかった。プログラミングが出来ること、それは電子の世界の魔法使いになることと同じだ。もちろん、私の身に着けた技術など毛も生えてない素人のものに過ぎない。しかし、外国語を勉強すれば、たどたどしくても外国の文書を読むことができるようになるように、私は魔法の世界へのパスポートを手にいれたのだ。この達成感は何物にも代えがたい宝物である。

prog-8.com

 

 次に、画像編集について、その面白さを知った。私は絵が壊滅的に下手で、美術の才能が全く無い。美術の成績はいつも「2(期限通りに成果物を提出できた)」だった。アナログの絵に対してコンプレックスしかなかった。しかしながら、下手であるがゆえに絵や美しい写真に対する憧れは激しくあった。そして、デジタルの世界に出会った。デジタルで描く絵は、アナログと違い手先の器用さがそこまで致命的な影響を与えない。デジタルで歪まない直線が引けること、はみ出た塗りをやり直せることは本当に素晴らしかった。授業でついた勢いで、PhotoshopIllustratorの世界にも手を出した。焦がれては目を背けていた世界に、気がつけば飛び込んでいた。才能ある人々が大空を舞う鳥だとすれば、私など地を這う虫けらに過ぎない。しかし、幸いにして、デザインの才能がなくても私は理屈の力で補うことができる。虫には虫の、見える世界があるのだ。

 

 最後に、人間関係の構築について。全くバックボーンの異なる人たちとの付き合いであったが、破綻なく人間関係を続けることができた。これも、職業訓練で得た自信の一つである。

 当初の予想通り、職業訓練では深い人間関係を作ることはできなかった。それこそ、半年間毎日顔を合わせ、朝から夕方まで机を共にしてきた仲だし、よくお喋りもした。人数が少なかったので、派閥ができたり啀み合いが発生することも、孤立した人ができることもなかった。外野から見れば和気藹々としたクラスに見えただろう。だが、どこまでいっても生徒たちは互いに一線を引いた付き合いであった。それは職業訓練という、いわゆる学生生活とは異なる環境が成せるものなのかもしれないし、生徒の背中に貧困が大きな口を開けて迫っていたかもしれない。今の日本はどんどん格差が広がり、貧困がまだらに散らばる社会である。周りの人は豊かに見えるのに、自分だけが貧しくなっていく(ように思う)のは、地獄以外の何物でもない。願わくば、お互いにより豊かになった状態で、再会したいものだ。