【感想】ドキュメント72時間「女子刑務所」
法に触れた覚えも予定もないが、何故か刑務所を扱った作品が好きである。
「嫌われ松子」では、松子が女子刑務所に入るエピソードが 一二を争うお気に入り。佐藤優の「獄中記」は、この一年ほど電子書籍で持ち歩いては空き時間にパラパラめくっているほど、とにかく刑務所の描写が好きなのである。
↑ことごとく男運がない松子、挙げ句の果てに男を刺して刑務所暮らし。女子刑務所では、もと教師の素養を生かして美容師資格を取っていた。
↑専門書を読んだり語学を勉強したり、一年半の勾留生活を満喫したヒト。東京拘置所は食事のクオリティが高いらしく 三が日は正月特別メニューが出るなど、「刑務所のグルメ」談義も面白かった。
先日、ドキュメント72時間「女子刑務所」を見た。
真夏の日差しが降り注ぐ、和歌山女子刑務所。刑務所裏に一本だけ生えているひまわりが夏空に揺れる。
「彼女(受刑者)たちの素顔」と銘打ったわりには登場人物の顔は完全モザイクだったが、この辺りが報道とプライバシーの折衝限界なのだろう。
早朝、刑務官の点呼で女子刑務所の1日は始まる。受刑者たちは、ランドリーの立ち仕事から、車椅子に乗りつつ行う軽作業まで、能力別に割り振られた労働に勤しむ。三度の食事は、麦が混ざったご飯に、複数のおかず。自分たちで食事も作るし、味の濃いものも食べられる。夕方になると労働棟から生活棟へ戻り、つかの間の自由時間を味わう。意外にも(?)独房には1台ずつテレビがあり(液晶ディスプレイ)、休憩時間には部屋を行き来して談笑もできる。規則正しい生活は、寄宿舎の暮らしのようでもあるし、風呂上がりの髪をとかしながらテレビに興じる姿は、さながら女子学生の修学旅行のようだ。
だが、誰もが語るに語れぬ事情を抱えてそこにいる。戦後すぐに、覚せい剤に手を染めて、辞められないままに人生の半分以上を刑務所で暮らす老女。20代で入所して10年、青春のすべてを塀の中で過ごした30代女性。シングルマザーとして二人の子供を育てていた50代女性。服役前は保険業に従事していた経験を生かして、刑務所内で猛勉強し、美容師資格を取った。インタビューに答える佇まいからも、真面目な性格が伺える。何故刑務所に入ることになったか、については語られないし、語れない。拘置所では原則禁止のテレビが刑務所で許可されているのは、それだけ長い期間刑期に服さなければならないことの裏返しでもある。
受刑者には老いも若きも、外国人も居る。罪を犯し、刑務所に入る女性はこの20年で倍増しているというが、あえて番組内では原因の考察などはなかった。ただ、刑務所の生活に密着しての取材の中で、塀の中の彼女たちと塀の外の我々との違いはなんだろうか、と考える。
刑に服す彼女たちはあまりにも普通で、いわゆるステレオタイプな「犯罪者」は居ない。誰もがそれぞれの事情を抱え、なんとかしようともがいた末に歯車が狂い、もはや自分の手では元に戻れないうちに犯罪に手を染めてしまう。それは我々の生活と全き地続きであって、究極的には運命としか言いようのないものなのかもしれない。
番組の終盤、この道35年のベテラン刑務官へのインタビューが印象的だった。
「うちら深海魚のごとくにこの熱い35年、生きてきてるから。
あそこ(刑務所)の門を入るじゃないですか、(心の中で)『スタート』って言って、映画のカチみたいに(仕事の)スイッチ入って、そこからは『よし』って」
ラスト、「来てください」と言われてスタッフが向かった刑務所裏。ひまわりがただ一輪、太陽に向かって咲いていた。刑務官たちは毎朝この花を見て、仕事に向かうという。ひまわりは、受刑者が植えたものだった。
絶望の底にも、希望は咲く。塀の中でも、外でも、人生は続く。