何たる迷惑であることか!

独自の路線で生きています

マルチと宗教とミキ・プルーンの苗木

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前置き

 田舎で暮らすと、必然的に買い貯めスキルが身に付くようになる。 

 田舎のスーパーマーケットは、倉庫のように店舗が大きい場合がほとんどだ。食料品だけでなく、洗剤から化粧品から植木鉢まで、よろずの商品を一つの店舗で扱っている。利用者の多くは車で店までやってきて、カートに大量の商品を買い込む。カートに山盛りの食品は、母さん父さん子供複数にじいさんばあさんの一週間分の食料となる。買い物のために車を何度も出すのは大義だし、不経済だから、買い物の頻度はだいたい週に一回程度。若い女性の多くは染めた髪の毛をラフにまとめ、右手で子供の手を引きながら左手でカートを押し、途中で器用にスマホを取り出しては商品棚とにらめっこしている。判で押したように、皆同じ動きをする。そんな中で、一度に買う量が少なく、駐車券を出したことがなく、カートを不器用に引いて歩くわたしの姿はいかにも奇異なものとして映ったのかもしれない。

 

 スーパーで知り合った女性、Aさん(仮名)。ハーフアップにした明るい茶色の髪が、分け目こそ薄いものの髪の量はまだたっぷりとあり、目尻に皺が寄る以外に、「上の息子が今年中学生になるのよお」という事実を感じさせる要素はない。

 

 「こんにちは」

 「いっつもこのスーパーで買い物してはりますよね」

 「近くに住んでるの?」

 「結婚して何年? 子供はいくつ? まだいない?」

 「毎日料理してるの、えらいよねえ」

 「私もね、成長期の子供からメタボが気になる旦那から今年80の爺ちゃんの食事まで、毎日料理しとるのよお」

 「でもさ、食品のさ、テンカブツ、とか気にならん? 何にでも入っとるよね」

 「食育、とか、食に関する知識、とか、勉強したない?」

 「家族の健康のためよお」

 「今度勉強会があるけん、来て頂戴ね」

 

 引っかかりはいくつかあった。「食品添加物」、「家族の健康」、「食育」。話の中で「シャンプーの毒は頭皮に溜まるけん、液体シャンプーは使わんほうがええよ」という話題が出た時点で、だいたい予想が付いていた。

 

 「食と健康の勉強会」、付いていったらマルチ商品の販売会場でした。

 

 具体的手法

  1. 知人を通して勧誘を行う。今回の商法では、食育」や「食の健康について考える」ないし、「美味しくて安全な料理を作る」という名目で 新規の人間を引きつける
  2. 「勉強会」(「料理教室」と呼ばれることもある)で販売員が栄養学や食品添加物等の講義を行い、知識の面で新規の人間を納得させる
  3. 一個数千円程度の商品を実際に購入させる(商品が特に高額なものではないところがミソ)
  4. 新規の人間は、商品を自身で使ってみることで、「意外に悪いものではない」と実感する(実際は「健康に悪いものではないが、特に良い効果があるものでもない」の間違い)
  5. 商品は特に健康に被害を与えるものではないし、知人との付き合いもあるので断りづらく、商品を続けて購入するようになる
  6. 知人の紹介で、商品のセミナー等に出席するようになり、段階を経て洗脳される
  7. 自分の意思で、販売員として効果のない商品を売り付けるようになる

 

マルチ商法の具体的な手口は、こちらの記事が詳しいです。

d.hatena.ne.jp

 

 私が参加した「料理教室」は、総勢で10人ほどの女性が参加していた。中心となる販売員は1人、それを支える準販売員が2人。勧誘されて日が浅いが、商品はばっちり購入しており、洗脳の途上にある販売員もどき(Aさん含む)が3人、販売員もどきの家族や知人であったりして誘われて参加した私のような人間が4人、で会は構成されていた。

 

 「料理教室」は以下のように進行する。

 前半は皆でお料理をする。ただし、調理師免許はおろか、お世辞にも料理が上手いとは言えない販売員の小母さんが中心となって商品を使用した料理を作り、皆で料理を食べる、という流れ。これがまた実にマズい。でも販売員の小母さんは美味しい美味しいと口外して止まないし、準販売員の方々もニコニコしている。勧誘された人々は洗脳程度が高まるにつれて生理的な不快感を顔に表せなくなっていく。

 

 後半は販売員による栄養学講座。如何に現代人の食事が偏ったものであり、人々の健康が危機に瀕しているか、ということが科学的事実二割、トンデモ八割の割合で演説される。食べたコラーゲンがそのままお肌に分泌されるレベルのトンデモファンタジーだが、ちょいちょい科学的事実を挟んでくるから余計に辛い。で、締めは「健康になるためにこの商品を買いましょう」だった。

 

卑見を述べると……

 帰りの車でAさんが語ったところによると、Aさんがこの商品と関係を持ったのは、二人目の息子さんがアレルギーを発症したことがきっかけらしい。専業主婦として家族の健康を預かる立場にあるAさんにとって、何の前触れもなく降りかかったアレルギー被害は、まさに青天の霹靂であった。アレルギー自体は不可抗力であったが、Aさんは深く責任を感じ、食を通した健康について深く考えるようになった。そこで、やはり知人の紹介で、「食育」の勉強会に参加するようになり、勉強の一環として商品を購入し、家族で食べるようになってのち、自身も知人を誘って会合に参加するようになり……そして現在に至る。子を想う親心を商売に利用され、今や詐欺商品の販売促進に寄与してしまっているわけだ。

 

 卑見を述べれば、Aさんを始めマルチ商法の信者となってしまう人には共通点がある。それは、過去・もしくは現在においてある種の不幸に見舞われている、ということだ。

 

 自身が病気になり、健康に不安を感じるようになった。

 家族が怪我をして働けなくなった。

 子供が病気を発症した。

 離婚して、家庭を失った。

 仕事を辞めて、なかなか再就職できず、貧困状態にある。

 

 マルチ商法も宗教も、このような「自分の力ではどうしようもできない」不幸に見舞われた人をこそ、食い物にする。マルチ商法は別名「ネットワークビジネス」と呼ばれるが、人と人との間で商品を伝播させることでしか利益を挙げられないことを逆手にとって、孤独な人を依存させる。実際は不幸をまき散らすだけなのに。

 

 自分だって、今回は被害に遭わずに済んだが、もし苦しみの最中にあって声をかけられていたら、どうなっていたかわからない。マルチも、ある種の宗教も、人の不幸を燃料に繁栄しているのだ。

 

 聞いた話では、子供のいない専業主婦は、マルチや宗教に嵌めやすいんだってさ。

 舐められたもんだね。

 

 それでは皆さん、ご一緒に。

 

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